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■ ゼルダの伝説 その5

《鉄拳》

僕がもう一度、「E君、やめろって」と言うより、I君の拳の方が先だった。

I君は、思いっきりE君の左頬を殴った。I君は泣いていた。
僕は、I君もあまり裕福な家庭でないことをよく知っていた。

でも、I君は、何よりスポーツが出来たし、顔もかっこよかったので、
クラスメートからは、一目置かれた存在だった。

でもA君は、正直言って勉強も出来なかったし、スポーツも出来なかった。
B君みたいに、ゲームもうまくなかったし、話もそんなに得意な方ではなかった。

「おとなしい」というのが特長みたいな少年だった。

そんなA君が、I君の目にどう思っていたのかは分からない。

でも、恐らく、I君は悔しかったんだろうと思う。
A君自身にはどうすることも出来ないことで、
A君が人から見下されるのが悔しかったんだろうと思う。

そして、
何にも言い返さないA君にも腹を立てていたんだろうと思う。

殴られたE君は、すぐに泣き出した。
「ほら、お前も殴れよ。いらついてんだろ」

と、I君はA君の腕を掴んで言った。でも、A君は首を振った。

I君に腕を捕まれたその時のA君は、涙は流していなかったが、何となく魂を抜かれたような顔をしていた。
その目は開いていたが、何も見てはいなかった。

その顔は、僕にとってすごく印象的な顔だった。
人間って、こんな顔も出来るんだなって、僕はなぜか妙に感心してしまっていたのだ。

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