《鉄拳》
僕がもう一度、「E君、やめろって」と言うより、I君の拳の方が先だった。
I君は、思いっきりE君の左頬を殴った。I君は泣いていた。
僕は、I君もあまり裕福な家庭でないことをよく知っていた。
でも、I君は、何よりスポーツが出来たし、顔もかっこよかったので、
クラスメートからは、一目置かれた存在だった。
でもA君は、正直言って勉強も出来なかったし、スポーツも出来なかった。
B君みたいに、ゲームもうまくなかったし、話もそんなに得意な方ではなかった。
「おとなしい」というのが特長みたいな少年だった。
そんなA君が、I君の目にどう思っていたのかは分からない。
でも、恐らく、I君は悔しかったんだろうと思う。
A君自身にはどうすることも出来ないことで、
A君が人から見下されるのが悔しかったんだろうと思う。
そして、
何にも言い返さないA君にも腹を立てていたんだろうと思う。
殴られたE君は、すぐに泣き出した。
「ほら、お前も殴れよ。いらついてんだろ」
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