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■ 消えた冒険の書 その7


《顛末、その後・・・》


ただ、だからといって、T君が犯人だということを、その場にいたみんなが理解できたかというと、
それは絶対になかったと思う。

ここまで冷静に分析してきた僕だからこそ、すでに犯人候補を2人に絞っていた僕だからこそ、
理解できただけで、他のみんなは、

「T君、犯人の親をかばうなんて、えらいなぁ」

くらいにしか思わなかったんじゃないかと思う。

Y君のレベル99の冒険の書を消し、代わりに、「あほろ」という名前を勇者につけ、
新しい冒険の書を作ったT君の気持ち。

正直言って、僕には理解できなかった。

ただ、T君が犯人だと分かった後で、よくよくT君を観察してみると、どうやらそれは、


Y君に対する「単なる嫉妬」

だったのではないかと思う。

つまり、
気に入らなかったのだ
ただ、それだけなのだ。

次に僕は、僕から「犯人の親は『あほ』だ」と言われた、T君の気持ちを考えた。
きっと、T君はまさか自分の親が批判されるとは、夢にも思っていなかっただろう。


僕の言葉なんて、そのまま無視していればいいのに、やはりたまらなくなったのだろう。
だからこそ、あの不自然な場所で、ああやって不自然な言葉を発してしまったのだ。

僕はT君に対して「すまないことをしたな」とは思わなかった。
その代わりに「正直にY君に謝って欲しいな」とは思った。
でも、それは
多分無理だろうなとも思った。

悲しいが、T君はそういう人だったのだ。(事実、思った通り事は進展した)

次の日の昼休み、僕は念には念を入れて、確認をすることにした。
僕はT君の隣に行って、誰にも聞かれないようにそっと言った。

「ねぇ、Y君のドラクエ盗んだの誰だと思う?」

T君は一瞬にして青い顔をした。
明らかに、僕が疑っていることに気が付いた顔だった。
そして、

「そんなの、しらねー」

と言って、運動場に走っていった。
僕は、その背中をみながら、恐らく、
T君は同じようなことを、いつかまた繰り返すだろうなと思った。

その日寝る前に、僕は考えた。

僕はY君にこのことを教えてあげるべきなのだろうか。
それとも、自分の親や担任の先生に伝えれば、何か解決になるのだろうか。
でも、やはり、それは無意味なような気がした。

Y君にとっても、T君にとっても、そしてもちろん、僕にとっても何のメリットもないような気がした。
それで、僕は誰にも何も言わなかった。



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